立地企業インタビュー
立地企業インタビュー
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有限会社吉原木工所
代表取締役 吉原敬司氏
伝統木工技術「組子」を用いた障子、家具及びアートのデザインから製作、納品まで一貫して手掛ける有限会社吉原木工所。古くは飛鳥時代から受け継がれる伝統技法でありながら、吉原木工所が作りあげる組子細工は実にモダンかつ洗練されています。和室だけでなく洋間にも馴染む繊細で美しいデザインが好評を博し、今や国内外からオーダーが殺到する同社の看板商品になりました。
2021年より浜田市三隅町に先代が建てた工場・社屋の大幅な改修を進めている最中で、2022年6月に完成。代表取締役の吉原社長に、新工場建設の経緯や人材育成に関わる取り組みなどについて伺いました。
1. 御社の事業内容についてお聞かせください。
曲線組子の技術が光るモダンなフロアランプ「しずく」
弊社は先代が昭和33年に創業し、平成8年に法人化しました。創業以来、作りつけの木製家具や建具を中心に、お客様のご要望に合わせた製品を熟練の職人が一点一点提供してきました。後継者の私は、日本の伝統木工技術「組子」を県外の工房で学び、平成15年に入社して新たに組子部門を立上げました。
立上げ当初は正直孤独でした。建築の世界において昔ながらの和室の需要が次第に低下していくなか、組子というニッチな分野で勝負しようとする私の考えは周囲の理解が得られにくく、「今どき組子なんて売れん」と周囲から言われていました。
ひとつの契機として、平成25年に発表した組子障子のグッドデザイン賞受賞があります。徐々に私たちの作る組子が認知されていき、やがて全国のお客様から多くのお問い合わせやご注文をいただくようになりました。
本来、私たちの業界は自社商品を持ちませんが、自社オリジナルとして見てもらえる商品が少しずつ出来始めたのがこの頃で、今では弊社の主力商品になっています。最近では世界の一流ブランド店からもオファーをいただくようになり、大変光栄に思っています。
2. 社屋と工場を全面改修された経緯についてお聞かせください。
広くなった工場で、より良いものづくりを
先代から続く以前の生産ラインは、新事業である組子をつくるのにかなり非効率な造りになっていましたので、工場を全面改修することで、仕入れから加工、出荷という流れの動線を考慮した効率的な体制に改良することを考えました。
また、有難いことに一緒に働いてくれる社員数が増え、工場が手狭になったことも一因です。
3. 実際に改修されて良かったと思われる点をお聞かせください。
窓からは室谷の棚田を望む
立地的に増築するより移転をしたほうが工事費等を安くできたと思いますが、増築という選択をしたことで、私が子供の頃から憧れていた先代(両親)の建てた工場を活かしながら、現在の吉原木工所のものづくりのスタイルに合わせた新しい社屋を建てることができました。
無数の棚田が広がるここ室谷地区はいわゆる中山間地域で、決して交通の便も良くないのですが、組子製品や製造工程を見学したいとわざわざ遠方から訪ねて来られるお客様も少なくありません。そういったお客様のニーズに応えるため、来訪者の方々にゆっくりと作品を鑑賞いただけるギャラリースペースと社員の休憩スペースを兼ねた空間も現在整備中です。
4. 採用にあたって、御社の求める人物像についてお聞かせください。
お客様への想いを込めたものづくりを
弊社は経営理念として以下の3つを掲げています。
・【鍛錬】日本の職人として在るべき「心・技・体」の精神を全力で受け継ぐ
・【挑戦】常に創意工夫を凝らし、日々活動のなかに感動を組み込む
・【感謝】関わる人に感謝を伝え、互いの心を豊かにするものづくりを目指す
組子を作る工程では単調な繰り返し作業も多くあるのですが、社員にはその意味までしっかり理解しながら作ってもらいたいと思っています。ただ器用であればよいというわけではなく、お客様を想い、共に働く仲間を想いながら仕事ができる人材を求めています。
また、技術職以外に「営業事務」という職種があるのですが、彼らに求めるスキルもかなり幅広く、かつ高いレベルであると自認しています。営業事務はまずお客様の要望を丁寧にヒアリングし、それを基にデザインを起こして、適宜職人とコミュニケーションを図りながら、お客様の描く製品を形にしていく役割を担います。簡単な仕事ではありませんが、それだけにやりがいも大きく、遠方から志願して入社した社員も離職するケースは極めて少ないです。
5.島根県の人材の特徴として感じられていることはありますか。
スタッフの7割は島根県出身者
現在スタッフの7割が島根県出身者で、性格や経歴の違いはありますが、弊社に来てくれるスタッフは皆志が高く、お互いを思いやって行動できる方たちばかりです。各部署で自分の役割を全うし、チーム一丸となって日々の活動に真摯に取り組んでいます。
先代のときは多くても6名程度しかいなかったスタッフが現在11人まで増え、仲間が増えたことを本当に喜ばしく思っています。
6.人材育成に関する考え方や取り組みについてお聞かせください。人材確保にあたって配慮・工夫されている点はどういったことですか。
「一流の接客を受けること」も研修の一部
社員研修と福利厚生を兼ねて、年に一度スタッフを引き連れて、取引のある製造業者様や販売先店舗を訪問しています。そこで実際に納品した現場を見学したり、客の立場で一流の接客を受けたりすることで、お客様の感覚と作り手の感覚との差異をできるだけ無くすことを目的としています。
加えて弊社の職人は、同じものを繰り返し作る技術職ではなく、お客様のニーズに合わせてさまざまなものづくりを行う「多能工」であることが求められます。かといって、皆の技術を平均的に向上させることは非常に難しいので、一人ひとりの特性を見極め、それぞれの得意分野を伸ばしていけるような育成の仕方を心がけています。
また、我々の仕事はチームワークがとても大切です。時にチームの中に自分のことばかりを考える人物がいるときは、思わず声を荒げて叱ることもあります。すべてはお客様のため、仲間のため、という意識を持って仕事することを日頃から徹底して伝えるようにしています。
将来的な人材確保も視野に入れつつ、地域の学校に伺って弊社の取り組みを紹介したり、ワークショップを行ったりもしています。インターンも積極的に受け入れています。
7.福利厚生などへの取り組みの内容や考え方についてお聞かせください。
勤続を称えて贈られた小サイズの行灯
主な取り組みとして、年次有給休暇の計画的付与制度の導入、退職金制度の見直しなどを行っています。また、組子という特殊な世界でまずは5年腰を据えて頑張って欲しいという想いから、入社5周年を迎えたスタッフには、約5万円相当の本人が希望する品物をプレゼントしています。これまでの例では、スーツとか、旅行券とか、自社製品の商品券なんていうのもありましたね。弊社の商品で組子の行灯があるのですが、それが欲しいといって贈った例もあります。
今後さらに福利厚生を充実させるために、従業員の声を聞きながら取り組んでいこうと考えています。
8.地域貢献活動(祭り・イベント等)の内容や方針などあればお聞かせください。
地域の方に「ものづくりの楽しさ」を知ってもらいたい
コロナ前は地域のイベントと絡めて工場を開放し、ワークショップなど行っていましたが、ここ2~3年は開催できていない状況です。弊社の地域は過疎地域でもあり、コロナが明けても地域イベントができるかはわからないので、今後は独自開催も考えています。
地域向けイベントといえども、本気でものづくりを楽しめるような内容を企画したいですね。例えば半日から一日かけて、職人がしっかり付き添いながら一緒に製品を作りあげる体験をしてもらうのもよいかなと思っています。
9.今後の事業展開、展望についてお聞かせください。
床に落とす影まで繊細で美しい組子家具
「組子家具」を新たな主力商品に成長させることを目標にしています。
カタログに掲載されている品番のリビング障子だけでなく、更にデザイン性に優れた「アート組子」をより多くの個人のお客様にご愛用いただけるようになることを目指しています。
例えばこちらのテーブルは、弊社独自の高度な技術を用いながら高いデザイン性を実現しており、手間と時間がかかる高額な商品ですが、既に複数台のご注文をいただいています。
このようなニッチで高付加価値な商品を企画することで、これまで以上に高収益な事業を展開していきたいと考えています。
10.島根県民や他の事業者へのメッセージなどあればお聞かせください。
まだ県民の皆さんにあまり知られていない組子細工ではありますが、この新社屋完成で「つくる工場」から「魅(見)せる工場」へ生まれ変わりました。
組子製品はもちろんですが、チームワークを重んじ、志を持って伝統技術に打ち込む弊社自慢のスタッフに会いに、ぜひ一度ご来社ください。
会社の基本情報およびお問い合わせ先
- 会社名:
- 有限会社吉原木工所
- 所在地:
- 〒699-3303 島根県浜田市三隅町室谷912-1
- 連絡先:
- TEL:0855-34-0227
FAX:0855-34-0233 - URL:
- https://yoshiharawoodworks.com/
(2023年3月取材)